油圧小話 目次へ戻る

 前回、前々回と油圧の動く仕組みを簡単に説明いたしました。で、筆者の知り合い等からよく出た一番多かった質問がどうして水ではダメなのか、と言うものでした。そうですね、弊社名の‘ハイドローリック(Hydraulic)’も日本語では「水圧」とも訳されるのです。しかしなぜ油を使うのか、その辺を今回はご説明しようと思います。

 液体と言ったとき、酒、ビール、ガソリンと連想する方もいるでしょう、おおかたの方は地球上にほぼ無限にある「水」を連想するかもしれません。油圧機器の原点も水圧装置でした。現在パリのエッフェル塔のエレベータが水圧装置で動いています。

 しかし水では困る問題もいくつかあります。水は100℃を越えると沸騰して蒸気になってしまいますし0℃を下回ると凍ってしまいます。更に鉄などの金属を酸化させる働き、そう、さび付かせる原因にもなります。粘度も低く、潤滑性も乏しいです。

 では、どのような性質の液体が求められるでしょうか?圧力伝達用の液体として必要なものは何か、列挙してみますと、

1・十分な潤滑性があること

2・十分な流動性があること

3・非圧縮性であること

4・化学的、物理的に安定していること

5・錆び、腐食の発生を防止すること

6・シール材との適合性がよいこと

7・安価であること

 

 これらの項目をまァ、おおむねクリアできるものの一つが「油」と言うことになります。他にも最近ではシリコンやポリマー、水グリ(水グリコール)、フッ素オイルもありますが地球上に存在する安価で豊富な液体がやはり油となります。

 では、圧力媒体に油が使われていることはこれでお分かりと思いますので、続いて油圧装置の長所、短所について話を進めようと思います。油圧装置と言えば多少機械の知識がお有りの方ですと「小型で強力なメカ」とお思いでしょう。ズバリその通りです。これが油圧システムの最大の長所であります。

 

 例えばここにテコを使った装置と油圧を使った装置で5トンのものを持ち上げようとします。

 ただし力は人の力でやります。力点にかかる人間の力を20kgfとして、5トンのものを5cm持ち上げてみます。

 人の力を20kgf、持ち上げるものの質量を5トン(5000kgf)、支点から作用点までの距離を20cmとすると、支点から力点までの距離はどうなるでしょうか?

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 5トンのものを持ち上げるのに必要なモーメント(ねじり力、トルク)は

5000kg×20cm=100000kg-cm

 これだけのモーメントを発生させなければなりません。

 人の力を大体20kgfとすると支点から力点までの距離は

100000kg-cm÷20kgf=5000cm

 なんと50メートルの長さが必要になります。 また、5cm持ち上げようとしたらどれくらい力点は動くでしょうか?支点から作用点までの距離が20cm、持ち上げ量が5cm、支点から力点までの距離が5000cm(50メートル)ストロークは支点から力点までの距離と、支点から作用点までの距離と比例するので、

支点から力点までの距離5000cm×持ち上げ量5cm÷支点から作用点までの距離20cm

=1250cm

 ようするに、たかだか5cm持ち上げるのにテコの棒を1メートル以上振り下げねばなりません。

 これも又大変大きい数になってしまいます。5トンのものを持ち上げるのにテコを使うと1250cmも体を動かさなければならないのですから、それはそれは大変な作業になってしまいますね。

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 これを油圧でやってしまえばどうでしょう。たとえ20kgfの力しかなくても、ポンプで発生させる圧力を利用してシリンダを動かせば、5トンの力なんて簡単に発生させられます。

 イラストは理研精機製の最大推力10トンシリンダ。そう、5トンの力も簡単に出せるわけです。

 サイズだって500ミリリットルの缶ジュースと同じくらいの小ささです。先程言った特長の「小型で強力」、まさにこれですね。

 空圧機器では2MPa(20kgf/平方cm)以上になると危険で、且つ、担当役所・機関への届け出が必要です。

 しかし油圧機器の場合は50MPa(500kgf/平方cm)以上にしても危険は殆どなく、実用レベルで200MPa(2000kgf/平方cm)を越えるものもあります。

 又実験レベルでは2GPa(20000kgf/cm)のものも利用されています。

 

このほかの長所として

1・過負荷(オーバーロード)制御が簡単で確実

電気ですとヒューズやオーバーロードリレーなどを入れて過負荷を止めるとか、機械方式ですとクラッチを設けるとかして過負荷を防ぎますが、いずれも高コストで部品交換もわずらわしいですが、油圧機器でしたら安全弁を組み込めば済みます。

2・力の制御が簡単

圧力や流量を調整するだけですね。

3・無段階変速が簡単で作動も円滑

これも圧力や流量を変えるだけ。

4・振動が少なく作動がなめらか

電気や機械と違い比重の軽い、圧縮率の低い液体の油を使うわけですから、慣性力や惰性力が比較的小さくて済みます。
シリンダにクッション機構を設ければ完璧!!

5・遠隔操作が簡単

油はパイプさえつながっていればどこへでも流れていきます。遠く離れた場所にシリンダをおいて作業しようとしてもそこまでホースを延ばせばいいだけの話ですよね。

最近ではシリンダとポンプを長い配管でつなぎ、オペレータ(操作する人)は、安全な場所でリモコン操作するというスタイルも採られています。

 

 しかしながら油圧機器も良いところばかりではありません。欠点をいくつか上げておきます。

1・配管が面倒、油漏れが嫌われる

 ポンプ、バルブ、アクチュエータ(シリンダなど)をつなぐ配管が必要なのは言うまでもありませんがこれらの機構を回って必要なくなった油をタンクに戻さなければなりません。空圧機器みたいに大気中に放出できませんから・・・。

2・火災の危険性がある

 作動媒体に油を使っているわけですから、引火の危険が全くゼロとは言えません。油は200℃前後で自然発火しますから、温度管理に気を配らなければなりません。

3・油温が変化すると速度も変わる

 これは作動油の特性でもありますが、油は高温になれば柔らかくなり、低温になれば固くなります。柔らかい状態ですと配管の中やバルブの中などをスムースに流れますが低温になるとやはりその動きも悪くなってきます。

 特に速度制御・位置決め精度のきびしいシステムでは注意が必要です。

4・エネルギー効率が悪い

電力→モーターで回転エネルギーに変換しポンプを回す→圧力エネルギーに変換、

と、二回エネルギー変換を行うわけですからどうしてもエネルギーロスが大きくなります。従って原動機の馬力も大きいものが必要です。歯車で直接エネルギーを伝えるよりも油圧機器はエネルギー効率が劣ります。しかしながら、2段吐出ポンプや必要なときに必要な圧力、流量を供給する電子制御ポンプなどの開発等、省エネへの取り組みが盛んになってきています。


  これら長所、短所をふまえながら油圧機器というものを構築していかなければなりません。やるものによっては油圧よりも電気の方がよい場合もありますし、空圧でもできるものもあります。また油圧でなければ出来ない物もあれば、これらを複合してシステムを構築するときもあります。参考までに各方式の制御項目の比較を示します。

 

各方式による制御項目の比較

  油圧方式 機械方式 電気方式 空圧方式
出力
 
大変大きい
(1000トン以上可)
あまり大きくない
 
あまり大きくない
 
やや大きい
(10トン程度)
操作速度 やや大きい 小さい 大きい 大きい
構造 やや複雑 普通 やや複雑 簡単
配線、配管 複雑 特になし 比較的簡単 簡単
温度 70℃位まで 普通 注意大 100℃位まで
振動 心配なし 普通 注意大 心配少ない
位置決め性 やや良好 良好 良好 不良
危険性 引火性に注意 特に問題なし 漏電に注意 問題なし
遠隔操作 良好 困難 特に良好 良好
据付位置の自由度 あり 少ない あり あり
遠隔制御 良好 困難 特に良好 良好
無段変速 良好 やや困難 やや困難 やや良好
速度調整 容易 やや困難 容易 やや困難
保守 簡単 簡単 技術要する 簡単
価格 やや高い 普通 やや高い 普通

 

誤記、本文中の間違い等がございましたらご一報ください。

次回は油圧に必要な各システムの簡単な紹介をしようと思います。

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revision 2, 2010