前回、前々回と油圧の動く仕組みを簡単に説明いたしました。で、筆者の知り合い等からよく出た一番多かった質問がどうして水ではダメなのか、と言うものでした。そうですね、弊社名の‘ハイドローリック(Hydraulic)’も日本語では「水圧」とも訳されるのです。しかしなぜ油を使うのか、その辺を今回はご説明しようと思います。 液体と言ったとき、酒、ビール、ガソリンと連想する方もいるでしょう、おおかたの方は地球上にほぼ無限にある「水」を連想するかもしれません。油圧機器の原点も水圧装置でした。現在パリのエッフェル塔のエレベータが水圧装置で動いています。 しかし水では困る問題もいくつかあります。水は100℃を越えると沸騰して蒸気になってしまいますし0℃を下回ると凍ってしまいます。更に鉄などの金属を酸化させる働き、そう、さび付かせる原因にもなります。粘度も低く、潤滑性も乏しいです。 では、どのような性質の液体が求められるでしょうか?圧力伝達用の液体として必要なものは何か、列挙してみますと、
これらの項目をまァ、おおむねクリアできるものの一つが「油」と言うことになります。他にも最近ではシリコンやポリマー、水グリ(水グリコール)、フッ素オイルもありますが地球上に存在する安価で豊富な液体がやはり油となります。 では、圧力媒体に油が使われていることはこれでお分かりと思いますので、続いて油圧装置の長所、短所について話を進めようと思います。油圧装置と言えば多少機械の知識がお有りの方ですと「小型で強力なメカ」とお思いでしょう。ズバリその通りです。これが油圧システムの最大の長所であります。
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
例えばここにテコを使った装置と油圧を使った装置で5トンのものを持ち上げようとします。 ただし力は人の力でやります。力点にかかる人間の力を20kgfとして、5トンのものを5cm持ち上げてみます。 人の力を20kgf、持ち上げるものの質量を5トン(5000kgf)、支点から作用点までの距離を20cmとすると、支点から力点までの距離はどうなるでしょうか? |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
5トンのものを持ち上げるのに必要なモーメント(ねじり力、トルク)は 5000kgf×20cm=100000kgf-cm これだけのモーメントを発生させなければなりません。 人の力を大体20kgfとすると支点から力点までの距離は 100000kgf-cm÷20kgf=5000cm なんと50メートルの長さが必要になります。 また、5cm持ち上げようとしたらどれくらい力点は動くでしょうか?支点から作用点までの距離が20cm、持ち上げ量が5cm、支点から力点までの距離が5000cm(50メートル)ストロークは支点から力点までの距離と、支点から作用点までの距離と比例するので、 支点から力点までの距離5000cm×持ち上げ量5cm÷支点から作用点までの距離20cm =1250cm ようするに、たかだか5cm持ち上げるのにテコの棒を1メートル以上振り下げねばなりません。 これも又大変大きい数になってしまいます。5トンのものを持ち上げるのにテコを使うと1250cmも体を動かさなければならないのですから、それはそれは大変な作業になってしまいますね。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
これを油圧でやってしまえばどうでしょう。たとえ20kgfの力しかなくても、ポンプで発生させる圧力を利用してシリンダを動かせば、5トンの力なんて簡単に発生させられます。 イラストは理研精機製の最大推力10トンシリンダ。そう、5トンの力も簡単に出せるわけです。 サイズだって500ミリリットルの缶ジュースと同じくらいの小ささです。先程言った特長の「小型で強力」、まさにこれですね。 空圧機器では2MPa(20kgf/平方cm)以上になると危険で、且つ、担当役所・機関への届け出が必要です。 しかし油圧機器の場合は50MPa(500kgf/平方cm)以上にしても危険は殆どなく、実用レベルで200MPa(2000kgf/平方cm)を越えるものもあります。 又実験レベルでは2GPa(20000kgf/cm2)のものも利用されています。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
このほかの長所として 1・過負荷(オーバーロード)制御が簡単で確実
2・力の制御が簡単
3・無段階変速が簡単で作動も円滑
4・振動が少なく作動がなめらか
5・遠隔操作が簡単
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
しかしながら油圧機器も良いところばかりではありません。欠点をいくつか上げておきます。 1・配管が面倒、油漏れが嫌われる
2・火災の危険性がある
3・油温が変化すると速度も変わる
4・エネルギー効率が悪い
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
各方式による制御項目の比較
誤記、本文中の間違い等がございましたらご一報ください。 次回は油圧に必要な各システムの簡単な紹介をしようと思います。 ご質問、お問い合わせはこちら Hydraulic & Co. Ltd. |